高野悦子「二十歳の原点」案内
「二十歳の原点」(昭和44年)

韓国語版(新版)の発売

 「二十歳の原点」の韓国語版(新版)、다카노 에쓰코 저/전화윤 역“스무 살의 원점”(테오리아, 2018)=高野悦子著/チョン・ハユン訳「スム・サリ・ウォンジョム(二十歳の原点)」が、2018年4月24日(火)に韓国で発売された。
 ソウル・ソチョ(瑞草)区にあり韓国最大の書店であるキョボムンゴ(教保文庫)・カンナム(江南)店で購入した。
教保文庫江南店店内の様子
 店内が広いため、書籍が並んでいる場所を店員にパソコンで検索してもらう。発売直後でなかったため、平積みの新刊書コーナーではなく、売り場GのG8-5(外国エッセイ)の棚に1冊あった。

検索結果と売り場の棚

 ※韓国語版では以前に다카노 에쓰코 저/김옥희 역“20세의 원점”(문예출판사, 2004)=高野悦子著/キム・オクヒ訳「20セイ・ウォンジョム」(ムニェ(文芸)出版社, 2004年)があるため、ここでは便宜上「(新版)」と呼ぶ。

 14,000ウォン、日本円換算で1,414円(発売当日レート)。ソフトカバーの単行本で、表紙はクリーム色を基調に若い女性の後ろ姿のイラストが描かれたデザインになっている。
 書名は縦書きで韓国語“스무 살의 원점”に日本語の「二十歳の原点」も添えられている。副題は“미숙하고 혼자였던 그 시절 쓸쓸한 일기”=「未熟で独りだった、あの時の寂しさの日記」。
 帯の文章は“성년이 된 일본 젊은이들이 통과의례처럼 읽는 스테디셀러”=「成年になった日本の若者たちが通過儀礼のように読む定番」とアピールしていた。
韓国語版表紙本文の活字韓国語版の訳注
 372ページ、B6判である。同じB6判の単行本で日本の「二十歳の原点」(新潮社、1971年)(新潮社・単行本と呼ぶ)が197ページ、「二十歳の原点」[新装版](カンゼン、2009年)(カンゼン・新装版と呼ぶ)が224ページであるのに比べるとかなり厚い。
 韓国語版(新版)の方が活字が大きく、割り付けに余白を持たせているためである。たとえば「31日午後、西那須野を出発し」で始まる1969年1月2日の記述を見ると、新潮社・単行本とカンゼン・新装版が3ページ前後に対し、韓国語版(新版)は6ページある。
 また韓国の読者向けに数多くの訳注が付されている。たとえば1月2日の記述で、①シュテムクリスチャニヤ(韓国語版(新版)の訳は「シュテムターン」)、②東大問題、③山小舎、④ひょっこりひょうたん島、⑤(ひょっこりひょうたん島の)博士の計5つについて脚注で解説している。このうちカンゼン・新装版で脚注があるのは①だけである。
 一方で高野悦子の写真は新潮社・単行本とカンゼン・新装版ともに冒頭にあって大きな特徴となっているが、韓国版には写真が掲載されていない。巻末の父・高野三郎『失格者の弁』も省かれている。

 ※韓国では生後の暦年で年齢を表す“数え年”が現在も広く使われているため、1949年1月2日が誕生日の高野悦子は韓国の数え方では1969年元日から21歳になる。

 手がけたのは、ソウル・ソデムン(西大門)区にある「テオリア」という小さな出版社。新潮社・単行本を原本として翻訳した形を取っている。
 ただ韓国の単行本で一般的な横書きの文字組みとなっていることや、1月・2月・3月…と月ごとに区切って中扉を入れていることなどから、全体的な印象はカンゼン・新装版に近いように見える。訳注などでカンゼン・新装版も参考にされているという。
出版社・テオリアの入るビル韓国版の広告
 本は“二十歳、その寂しさについて”と紹介されている。
 「20代は人生で最も輝く時代だと言われることがある。このためか、20代の若者は自分たちの青春の日々を輝かしいものにしようと奮闘する。しかし向き合う現実は輝かしいものではない。手に負えないことや、時には矛盾に満ちたものだ。その中で寂しくなったり、挫折したりする。幸せになろうとする若者ほど、逆に限りない孤独を感じてしまう。
 「二十歳の原点」は、その寂しい20代の若者による内面の告白である。著者の高野悦子、彼女は20年と6か月の短い人生を生きた。この本は彼女が亡くなる前の半年間に書いた日記(1969年1月2日~1969年6月22日)を集めたものである。彼女は、私たちの周りでもよく見かける平凡な大学生。しかし彼女は、心を許して話せる相手が存在しないことや自分だけの価値観がないことをいつも苦しむ。だからなのか?彼女は、「独りであること」「未熟であること」を二十歳の原点にして、自分を取り巻く世界と逆にぶつかろうとする。そして実際に激しく立ち向かうが、二十歳の彼女は、最後はその世界に寂しく屈してしまう」。

 翻訳は女性のチョン・ハユン(전화윤)さん。韓国外国語大学校日本語学科と通訳翻訳大学院を卒業して韓国国内の企業に勤務後、現在は「パルン・ボニョン(正しい翻訳)」(ソウル・マポ(麻浦)区)所属の通訳して活動中。韓国語への訳書に立花隆「死はこわくない」、内田樹「疲れすぎて眠れぬ夜のために」などがある。
 「時々、食事も忘れて本について考えている自分に気が付くことがあります」「原作者の心を忠実に伝える翻訳者であるとともに、読者が共感できる本を紹介するプランナーになることが私の夢です」と自己紹介している。

 チョン・ハユンさんは翻訳にあたった当初、“二十歳の女子学生になったつもりで訳す”という原則を立ててみた。しかし高野悦子の苦悩と焦燥を、自分が女子学生だった時の過去の経験と同一線上に見ることができないことから、一度立てた原則を修正し、“高野悦子が韓国語で日記を書くように訳す”ことになったという。
 「問題は、日記だから基本的に赤裸々なほど自由に書かれていますが、それによって高野さんの文学的素養を明らかにする妨げにならないような形にしなければいけないという点でした。さらに本書特有の統一されていない文体を置き換えることも簡単ではありませんでした。あまり整然とならないように、でも外れすぎないように。その間を綱渡りしていくことが、この本を翻訳しながら最も苦心したテーマでした」
訳者あとがきソウルと二十歳の原点のイメージ
 「訳者として、この日記がインターネット上で『自己反省』とか『うつ病・自殺』といったいつもながらのハッシュタグで軽々しく消費されないことを、そして20年6か月という短い人生を完全燃焼するように生きた一人の若者の記録として読まれることを心から願っています」(전화윤‘옮긴이의 말’다카노 에쓰코 저/전화윤 역“스무 살의 원점”(테오리아, 2018))

 『訳者あとがき』では、「訳注を書くにあたって、特に助けを借りたホームページがあります。直接連絡を取ったわけではありませんが、『二十歳の原点案内』というホームページを運営するKitamotoさんに感謝いたします。本が出版されて以来、2012年10月から彼が開設したホームページで彼女の人生の軌跡を追ってまとめる研究を行ってきている方です。国内の資料が不足して困った時に、数多くの決定的なヒントを得ることができました」と記されている。

 ※日本語訳は本ホームページの文責で行った。また日本の書籍は原題で表記してある。

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